下野葉月、「ベイコンにおける神学と哲学 理性と啓示」

「新しい哲学」の擁護者として名高いベイコンは、スコラ哲学と神学の伝統から自然哲学を分離した人物として語られることがある。この解釈の是非をめぐって、これまで研究者のあいだで彼の神学と哲学をめぐる議論が展開されてきたが、未だに定まった見解が共有されていない。ベイコンは哲学を神学から分離させかったのか、その分離は曖昧なものだったのか、それとも彼はそれらが誤った形で混同されることのみを望まなかったのか。
 ベイコンが神学と哲学という2つの領域の関係についてどのように考えていたかを明らかにするために、本発表では彼のキリスト教神学および哲学理解を検証する。それによってベイコンの思想においては、神学と哲学が相互依存的な関係にあり、どちらか片方の理解のみではもう片方を理解することが困難であるということが明らかになる。この関係を理解するためには、まずはベイコンにとって哲学は理性に、神学は啓示に基づいて行われるものであったことを確認する必要がある。しかしさらに重要なのは、彼は理性によって哲学的に神の存在を認識することを積極的に認め、また啓示によって得られた知見が理性の二次的な効用によって受容されることを必要とみなしていたということである。ここから、ベイコンにおける神学と哲学の関係は、彼の思想のうちで理性の対象となる自然的領域と啓示の対象となる超自然的領域の境界がどこに定められているかを検討することによって了然となることが分かる。
本発表では以上のようなベイコンの神学と哲学に関する見通しを得た上で、改めて彼が描いた新たな哲学の姿を見直すことも行う。ベイコンが新たな哲学に光をあて、そこに見出される価値について述べる際、どのような表現を用いているか。また、なぜそこで用いられる言語が古代神話に依拠したものなのか、その理由と背景を浮き彫りにすることを目指す。


文献

  • Steven Matthews, “Reading the Two Books with Francis Bacon: Interpreting God’s Will and Power,” in The Word and the World: Biblical Exegesis and Early Modern Science, ed. Kevin Killeen and Peter J. Forshaw (Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007), 61–67.
  • idem, Theology and Science in the Thought of Francis Bacon (Aldershot: Ashgate, 2008).